「知的財産」の位置づけ【知財コラム】知と財

「知的財産」という用語

 本年度も5月9日に、安倍総理が首相官邸で知的財産戦略本部会合を開き、「知的財産推進計画2016」を決定しました。2002年に知的財産基本法が制定されて「知的財産戦略大綱」が策定されて以来、「知的財産」という用語が社会に定着し、日本の国家戦略として整理されたことは、知的財産に携わる者の役割が明確になったという点でも大きな意味を持つものであったように思われます。

 そして、国家戦略としての「知的財産」の位置づけの変化に応じて、用語として使われる分野も広がりを見せています。特に近年は、クール・ジャパン政策との重なりもあってアニメ・コミック・ゲームといったコンテンツ分野から日本食や伝統工芸までが知的財産という概念に括られており、もはや知的財産に携わる者が産業財産権の保護対象だけを扱う時代でないことは常識と言ってもいいくらいです。

知財人材育成の方向性

 推進計画でも、8つある項目のうちの1つに「知財教育・知財人材育成の充実」が掲げられ、国民一人ひとりを知財人材として位置づけ、小中高等学校・大学など全ての学校種において、発達の段階に応じた系統的な教育を実施することにより「国民一人ひとりが知財人材」となることを目指すとされており、日本全体における知的財産に関する知識の底上げを図ることが打ち出されています。

 また、知的財産に関わる資格のひとつに知的財産管理技能士がありますが、実施団体である知的財産教育協会のホームページには「企業や団体の中でその所属企業・団体のためにいわば「内部」で能力を発揮する職員のための知的財産に関する能力を国が証明する国家資格」との説明があり、受験対象も学生から企業のコンテンツ制作部門、デザイン部門、研究・開発部門に所属する方、弁理士・弁護士・中小企業診断士などを想定していて、やはりあらゆる属性の方の知的財産に関する管理技能の底上げを意識しているようです。

 一方、推進計画には「戦略的な知財活用を支援できる弁理士の育成」との項目もありますが、上記の方向性を踏まえると、弁理士は主に産業財産の権利化手続きの専門家に特化するのが自然で、「知的財産」そのもの(知的財産とは、産業財産だけではなく、知的財産権ともはっきり区別される)の戦略を策定する担い手は、必ずしも弁理士に限らなくてもよい印象を受けます。

知的財産の統合的管理

 「知的財産」という概念があらゆる分野で意識され、日本全体として知的財産に関する知識や管理技能が底上げされることは歓迎されるべきことです。しかしながら、特許権とブランドがリンクしていない、知的財産部門なのに著作権は分からない、新興の中小企業に適した権利化を提案できないなど、従来の知的財産といま意識すべき知的財産との間の隔たりを大きくしないためにも、知的財産に対する統合的な視点や管理が不可欠です。

 筆者が知的財産ストラテジスト(登録商標)として活動する目的のひとつは、特許事務所や大企業の知的財産部門において扱われる伝統的な知的財産(大半は特許発明)と、いままさに国家戦略に位置づけられている「知的財産」の溝を埋めることであり、おそらくほとんどが知的財産の関係者であるパテナビ読者の皆様にも「知的財産」の位置づけの変化に対応いただくことを期待しています。

知と財 著者プロフィール

知的財産ストラテジスト® 井原 鉄吾朗 さん
大卒後、エンタテインメント業界にて知的財産業務に携わる。
特許発明、意匠、商標、著作権をはじめ、契約、ライセンス、侵害対策、法改正にわたる幅広い実務経験に加え、ビジネス開発から新規事業、クール・ジャパン業務に従事し、統合的な視点で知的財産を捉えることを専門とする.

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