専門家としての使命【知財コラム】知と財

「弁理士の使命」

 弁理士制度の見直しの一環で平成26年に弁理士法の一部改正が行われ、本年度から弁理士試験が新しい制度で実施されています。最終合格者には、改正により創設された弁理士法第1条(使命条項)に基づき、知的財産に関する専門家として、その使命を果たすことが期待されます。すでに弁理士である方々はご自身の使命を見直す良い契機になったかもしれません。

 使命条項の条文においてひとつ注目いただきたいことは、保護及び利用の対象が「知的財産」ではなく、あくまで「知的財産権」と表現されている点です。すなわち、使命条項の意図するところは特許権や商標権などの知的財産権に特化しているのであって、例えば著作権(「知的財産権」の一つ)の保護対象であるキャラクター(「知的財産」の一つ)の利用や、特許権(「知的財産権」の一つ)の保護対象である発明(「知的財産」の一つ)発掘の相談などは弁理士の専権業務ではなく標榜業務とされています。

「ガラパゴス化」に注意

 専門家とは特殊なことに精通している職業ですから、弁理士も特殊な知識・技能の提供が求められます。弁理士の専権業務の対象である「知的財産権」については、独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)第21条に「この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。」と定められており、独占禁止法が一般法、知的財産法が特別法の位置づけであって、競争法の面からも特殊なものであることが分かります。前回の本コラムにおいて紹介したように、知的財産推進計画2016で国民一人ひとりを知財人材として位置づけるなど、「知的財産」が日本で広く一般的なものとなってきていることと非常に対照的です。しかしながら、特殊な「知的財産権」だけに精通していて一般的事項である「知的財産」への理解が欠けているのであれば、それは専門的というより業務がガラパゴス化しているに過ぎないことに注意が必要です。

 知的財産部門が設けられていて権利化予算が比較的確保される大企業は別として、知的財産部門が無いような業種や新興企業にとっては確かに「知的財産権」は特殊なものであり、専門家による支援に対するニーズは高いでしょう。反面、専門家である以上、特殊なことに精通していることは当然であり、むしろ一般的事項、すなわち事業会社の収益の源泉である「知的財産」への理解が欠けていることになれば大きな問題となってきます。

一般的事項への理解こそ真の使命

 誌面の都合もあるのであえて理由を示しませんが、「面白いアイデアだから特許出願を行う」、「独特の形状だから意匠登録出願を行う」、「いいネーミングだから商標として登録する」…、弁理士の方でこれらに何の疑問も感じないとしたら業務が専門的でなくガラパゴス化している可能性があります。事業会社では権利化することに何か特別な幻想を抱いている方もいますが、研究開発部門にしてもデザインやマーケティング部門にしても、知的財産を創出する業務に従事する者は、たいてい権利化することを目的に日々の業務を遂行しているわけではありません。

 新試験制度に合格して弁理士になる方には、特殊な知識・技能を発揮する前提となる一般的事項への理解こそ専門家としての使命を果たすための当然の素養であるということを強く意識していただき、ぜひとも頼りにされる真の専門家として活躍されることを願ってやみません。

知と財 著者プロフィール

知的財産ストラテジスト® 井原 鉄吾朗 さん
大卒後、エンタテインメント業界にて知的財産業務に携わる。
特許発明、意匠、商標、著作権をはじめ、契約、ライセンス、侵害対策、法改正にわたる幅広い実務経験に加え、ビジネス開発から新規事業、クール・ジャパン業務に従事し、統合的な視点で知的財産を捉えることを専門とする。

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