知財戦略3.0(前編)【知財コラム】知と財

知財バブルの副作用

 20世紀の知財業界では、主に技術系企業が先進国において特許権の数を競うことが興味の中心であったように思います。そこへきて、1998年に米国で成立したビジネスモデル特許が知財業界に変革をもたらしたことは意外と意識されていないかもしれません。

 ビジネスモデル特許の出現は、それまで特許権と無縁と思われていた産業にとって黒船であり、事業に影響するかもしれないという危機感からある種の混乱状態になります。数年後にほとんど何らの弊害もなく収束するわけですが、これが思わぬ効果を生みました。すなわち、非技術系企業にも影響が及ぶという危機感に端を発し、特許発明以外を含む知的財産そのものが社会一般に認知されたこと、また、それを契機に企業の経営戦略や事業戦略と一体的な知財戦略の策定が叫ばれるようになり、知財戦略が特許権を中心とする研究開発分野の片隅から、商標権や著作権を含めて事業全般と密接に関係する企業経営の中核に躍り出たことです。

 事実、2002年に知財立国として日本の国家戦略が定められて以降、職務発明に関する従業員訴訟やパテントトロール対策、先進国で公開された特許情報をもとに技術革新を果たした新興国企業の台頭など、日本企業にとって様々な経営上のリスクの顕在化も重なり、知財戦略は年を追うごとに盛り上がりを見せました。その過熱ぶりは日本でも「知財バブル」と表現されるほどでした。ある意味、副作用によって知財戦略の重要度が増したとも言えるでしょう。

知財戦略3.0の時代に突入

 研究開発の一環で特許権を量産する知財戦略を1.0とすると、経営戦略や事業戦略と一体化することで知財戦略は2.0にバージョンアップしたことになります。やがて知財バブルは崩壊へ向かいますが、これとほぼ時を同じくして、今度はアニメ・コミック・ゲームをはじめとするコンテンツや、日本食・伝統工芸といった文化的資源など、必ずしも産業財産権の保護対象でない知的財産が戦略の中心を担う動きが出はじめます。国家レベルでは、クール・ジャパン政策が日本の国家戦略に掲げられ、インバウンド需要を喚起するなど一定の成果を上げています。

 産業レベルで見ると、かつてメイド・イン・ジャパンで世界を席巻した製品中心の知財戦略1.0からの転換が遅れ、知財戦略2.0にバージョンアップできていない企業がまだまだ多い中、例えば「なりきり」や「おもてなし」に代表される精神中心の価値が求められる社会の到来によって、知財戦略は3.0の時代に突入したと言えます。1.0や2.0時代の知財戦略が不要になったわけではなく、むしろ新たな産業の出現や産業構造の変化に合わせ、知財戦略を1.0や2.0を踏まえながらいかに3.0にバージョンアップできるかがいま問われています。

 知財戦略3.0の内容については、次回の後編において簡単に紹介します。

知と財 著者プロフィール
井原 鉄吾朗
知的財産ストラテジスト®
日本マーケティング学会 会員
大卒後、エンタテインメント業界にて知的財産業務に携わる。特許発明、意匠、商標、著作権をはじめ、契約、ライセンス、侵害対策、法改正にわたる幅広い実務経験に加え、ビジネス開発から新規事業、クール・ジャパン業務に従事し、統合的な視点で知的財産を捉えることを専門とする。

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